肝癌細胞を化学的、または虚血刺激(一般にEMTを誘導するとの報告がある)によりepithelial mesenchymal transition (EMT)を誘導すると細胞内のアクチン線維の重合障害がおこり、アクチンが重要な働きをするclathrin-mediated endocytosisが障害される。そのために肝癌細胞がEMTを起こすと細胞内にビタミンKを取り込めなくなり、PIVKA-IIを産生する。さらにEMTが進行すると上皮性細胞は間葉性の性質を持つようになり上皮性としての性質を失う。その過程において肝癌細胞が持つアルブミン産生能も低下もしくは廃絶することになる。本年度の研究はこのことを証明するために虚血および低栄養下で肝癌細胞株を培養した。予想どおり同条件下では蛋白合成能は低下すること、およびPIVKA-IIの産生が低下あるいは消失することを証明した。また、同機序にはmammalian target of rapamycin (mTOR)を介していることも証明した。さらに肝癌手術切除標本を用いて間葉性細胞に発現するvimentinと尿素サイクル酵素であるHep Par 1、PIVKA-II、リン酸化mTORを連続切片にて染色したところ、vimentin陽性肝癌細胞では、Hep Par 1、PIVKA-IIは染色されず、さらにリン酸化mTORも染色不良であった。 このことはin vitroの実験に合致する。今回の検討により肝癌細胞は生育環境が不良な状態ではEMTを起こし、その過程においてアクチンの断裂が起こりビタミンKの取り込みが不良となることからPIVKA-IIを産生するphenotypeに変化する。さらに生育に不利な条件下では、蛋白合成機能も低下する結果、PIVKA-IIも産生出来なくなる。このようにPIVKA-IIは単なる腫瘍マーカーであるばかりでなく腫瘍のEMTマーカーとしても臨床的に有用と考えられた。
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