膵癌は依然として最難治癌であり、その発癌過程にはまだ不明な点が多い。組織型はほとんどが管状腺癌であるが、その起源が膵管細胞か腺房細胞か内分泌系かという命題にはいまだ決着がついていない。我々の樹立した膵臓上皮特異的遺伝子改変マウス(遺伝子型:Ptfla^<cre/+>;LSL-Kras^<G12D/+>;Tgfbr2^<flox/flox>)は、Krasの活性化とTGF-betaシグナルのブロックにより、臨床の膵癌をよく近似した線維化の著明な管状腺癌を呈するが、膵臓の全上皮細胞で遺伝子改変が生じているため、膵癌の起源細胞は同定不可能である。また、このモデルでは、Ptflaが発現する胎生期から遺伝子改変が開始され、実際のヒトの癌のようなAdult-onsetの発癌ではない。 そこで本研究では、Nestin-creER;LSL-Kras^<G12D/+>;Tgfbr2^<flox/flox>という遺伝子型のマウスを作成し、成熟期のマウスにTamoxifenを投与してKras活性化とTGF-betaシグナルのブロックを開始し、成熟期の膵におけるNestin陽性細胞が膵癌の起源細胞であることの証明を試みた。Nestinは膵臓上皮の前駆細胞に発現することが知られている。 Nestin-creER;LSL-Kras^<G12D/+>とNestin-creER;Tgfbr2<flox/flox>に生後8週以降の成熟期にTamoxifenを投与し、10週後にその表現型を解析したところ、膵内にごく限局した領域に前癌~浸潤癌病変の形成がみられた。その組織型は、やはり分化型管状腺癌およびその前癌病変であり、Adult-onsetかつ限局性の腫瘍形成という点でも、より臨床の膵発癌に類似した過程を経ていると考えられる。本結果より、成熟期におけるNestin陽性の膵前駆細胞が膵癌の起源細胞となり得ることが証明された。 このNestin陽性細胞の成熟期の膵臓における分布をNestin-creER;Rosa26rというマウスを用い、成熟期にTamoxifen投与を行い、1-2週後にgalactosidase染色にて解析すると、膵内にごく僅かな陽性細胞を認めた。このNestin陽性前駆細胞の詳細については更なる解析が必要である。
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