研究概要 |
慢性膵炎は進行性の慢性疾患であり、持続・反復する膵炎により徐々に膵内外分泌障害をきたす疾患である。さらに慢性膵炎は、長期的には膵癌のリスクファクターの一つでもある。現在のところ慢性膵炎の早期発見に有効な検査法は存在せず、多くが進行した状態で発見されているのが現状である。したがって早期の慢性膵炎像も反映するような生物学的、機能的マーカーが望まれている、近年、新たなケモカインであるfractalkineが炎症早期に関与することが報告されているが、慢性膵炎において検討はなされていない。そこで本研究では慢性膵炎患者の血中soluble fractalkine (S-FRA)値に注目し、早期慢性膵炎の診断マーカーとしての有用性を検討した。慢性膵炎112例、健常者116例の計228例を対象に血中のS-FRA、MCP-1, TGF-βを測定した。さらに、慢性膵炎症例を5段階の重症度に分類し、重症度および重症度分類における各種パラメーター(膵外分泌能、画像上の進行度、飲酒量)とS-FRAの関連を解析した。さらに非アルコール性慢性膵炎症例群を設定し、重症度分類の各種パラメーターとS-FRAの関連を追加解析した。S-FRAは慢性膵炎群において有意な上昇を認め、比較的慢性膵炎の早期と思われる症例で有意な上昇を認めた。また、TGF-β1はより進行した慢性膵炎で上昇を認めた。また、昨年度に報告したが、DBTC慢性膵炎モデルラットを用いた実験でも同様のことが確認され、DBTC投与後14日目の膵線維化が進行し始める時期と一致してS-FRAの上昇を認めた。以上より、S-FRAは早期の慢性膵炎を反映する血清中の診断マーカーとなり得る可能性が示唆された。今後、血清S-FRA測定の有用性さらに詳細に検証する必要があると思われた。
|