慢性膵炎は進行性の慢性疾患であり、慢性膵炎進展における病態形成機序は不明な点が多く、その治療は断酒・低脂肪食を中心とした生活指導や、合併する疼痛症状の軽減、消化吸収障害、膵性糖尿病の代償療法的な治療が中心であり、慢性膵炎の病態そのものを標的とした有効な治療法がないのが現状である。また、現在のところ慢性膵炎の早期発見に有効な検査法は存在せず、多くが進行した状態で発見されているのが現状である。我々は昨年度までに、CX3Cケモカインである血中フラクタルカイン(FRA)測定が早期診断のマーカーになりうることを実証した。さらに、慢性膵炎モデルラットを用いた実験でも膵線維化が進行し始める時期と一致して血中およひ膵内FRAが早期に上昇する事を証明した。 本年度は、慢性膵炎膵線維化にFRAがどのように関与するがを検討した。ラット膵より膵線維化を担う膵星細胞(PSC)を抽出し実験に用い、以下の結果を得た。(1)特異的抗体を用いてPSCを免逸組織染色を行い、PSCにはFRAおよびその受容体が存在する事を証朋した。(2)感染(poly)(I;C)、LPS)および炎症性サイトカイン(TNF-a、IL1-β)刺激でPSCはFRAを容量依存性に分泌し、さらにADAM17activator(PKC substrate)であるPMAを前投することにより、FRA分泌はさらに亢進した。一方、MMP阻害剤であるBatimestat投与でFRAは抑制された。このことより、FRA分泌にはPSCのプロテアーゼが関与する事が判明した。(3)さらに、FRAのPSCに対する作用の検討のためにBrdU incorpotation assay を検討したが、フラクタルカイン刺激でPSCの増殖を認めた。 以上より、患者血中FRA産生源として、膵内のレジデント細胞であるPSCが一つの候補となりうることを明らかにした。また、この細胞からの分泌を剌激する要因に感染・炎症剌激がトリガーとなり、一方でPKC経路がその分泌に対しで相乗作用を有することを明らかにし、慢性膵炎の発症に2つの要因(two-hit theory)が関与する可能性を示唆した。以上より慢性膵炎の進展におけるFRAの作用が明らかとなった。
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