研究概要 |
本研究の目的は,慢性心不全症例における免疫制御機構(特に免疫応答や炎症反応を制御する調節性T細胞(Treg)の役割およびTh1とTh2細胞の機能バランス)と心臓自律神経機能との関連を解析し,免疫と自律神経の作用連関を明らかにすることである。まず,ヒトリンパ球表面抗原をフロー・サイトメトリー法により解析し,CD4陽性CD25陽性T細胞に含まれる調節性T細胞を,その特異的な転写因子(Foxp3)を発現する細胞として同定した。これらはCD4陽性T細胞のうち,約1~10%未満と少数であった。 心不全の背景疾患として食生活の欧米化や生活習慣の変化に伴い,虚血性心血管疾患の頻度が増加しており,動脈硬化性疾患の病態解明および治療や発症予防が国民的な課題となっている。本研究では,心不全の背景疾患としての動脈硬化の発症や病態に関わる免疫制御機構にも焦点を定めてTreg分画を解析した。その結果,下肢閉塞性動脈硬化症の症例では,(1)自覚症状の指標であるRutherford分類とはCD4陽性T細胞中のTregの割合(%)は関連を認めず,(2)動脈硬化病変の重症度分類であるTASC II分類で複雑病変と定義されるB,C型病変では,単純病変A,B型の症例よりもTreg(%)が低下していることが明らかとなった。下肢虚血症状に関わらず,動脈硬化病変の進行に伴うCD4陽性T細胞におけるTreg分画の低下が示され,動脈硬化性疾患における免疫制御機構の抑制が示唆された。本研究成果は第75回日本循環器学会総会・学術集会で発表予定である。さらに急性心筋梗塞や腹部大動脈瘤患者においても検討を進めており,慢性心不全の病態との関連についても解析が進行中である。
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