申請者らはこれまで、および平成20年度に慢性腎不全による維持透析症例で血漿S100A12タンパク質濃度が2倍以上の上昇を認め、その中でも糖尿病性腎症症例においてさらに高値を示すことを発見しました。また糖尿病性腎症透析期を含む維持血液透析施行症例においては血漿S100A12タンパク質濃度と頚動脈内膜中膜複合体肥厚度(IMT)の間に有意な正の相関を認め、動脈硬化の増悪寄与因子としての血漿S100A12タンパク質の役割を新たに発見し報告いたしました。 従って、冠動脈・脳・四肢末梢などの血管障害を合併しやすい糖尿病および慢性腎臓病(CKD)症例における血中S100A12濃度を測定し、血管合併症との関係を横断的研究(cross-sectional study)、後ろ向き研究(retrospective study)で検討し、次に冠動脈症候群などの心血管障害イベント発生への前向き研究(prospective study)を行い、血中S100A12タンパク質の血管障害イベントへの関与の有無を明らかにする事を目的に臨床パラメーターとともにデータベースを作成しております。データベース作成は平成21年度までに約550例が行われたが、平成22年度に200~300例程度追加し計700~800例を目標として継続中です。また平成21年度までの550症例において検証すると血管イベント(CVD)合併例201名、非合併例349名でした。血漿S100A12濃度はCVD群36.3±2.12、非CVD群18.7±0.67ng/mlとCVD群で高値を示しました(p<0.0019)。ロジステック回帰分析で検討すると、S100A12濃度上昇(10ng/ml)のCVDへの相対危険度(RR)は1.57倍と有意な増加を認めました(p<0.001)。
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