申請者らはこれまでに、慢性腎不全による維持透析症例で血漿S100A12タンパク質濃度が有意に上昇し、その中でも糖尿病性腎症症例においてさらに高値を示すこと、またその上昇が頚動脈内膜中膜複合体肥厚度(IMT)の増悪奇与因子である事を報告した。これらの結果より、血中S100A12タンパク質の冠動脈・脳・四肢末梢等の血管障害イベント発症への関与の有無を明らかにする事を目的に、慢性腎臓病(CKD)症例約800例においてS100A12濃度を含むデータベースを作成し横断的研究および前向き研究を行いました。平成23年度には、(1)まず登録済みの内550症例において横断的解析を行いました。血管障害合併の独立寄与因子をロジステック回帰分析で検討すると、血中S100A12濃度の上昇、糖尿病の合併、高感度CRPの上昇が有意な独立寄与因子でした。また、四肢閉塞性動脈硬化症(ASO)の単独発症に関しても血中S100A12が独立した危険因子である事を見い出し報告いたしました。(2)次に経過を追えた登録症例に関して2年間の前向き研究を行い、血漿S100A12タンパク質が血管障害イベントの新たな発症の危険因子となるかどうかをロジステック回帰分析で検討しました。結果は血管障害新規発症の独立寄与因子として血漿S100A12濃度の上昇はP=0.089と有意傾向にとどまりました。(3)また、我々が以前に報告したS100A12遺伝子発現を抑制するPPARリガンドであるピオグリタゾンの内服前後で血漿S100A12タンパク質濃度を糖尿病患者約30症例にパイロットスタディーとして測定したが、有意な増減は認めませんでした。
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