血管平滑筋細胞膜に存在するPhospholipase C (PLC)が刺激されると細胞内カルシウムイオン濃度が上昇し収縮シグナリングが起動する。我々はこれまでに冠攣縮性狭心症患者から得られた培養皮膚線維芽細胞において膜分画PLC活性が亢進していること、PLC活性と冠動脈のbasal toneおよび収縮刺激に対する反応性が正相関を示すこと、膜分画PLCの主体がPLC-δ1であることを既に報告した(J Am Coll Cardiol 2000)。本研究ではPLC-δ1活性を制御(亢進)することが知られているp122(1083個のアミノ酸から構成される蛋白)に着目し、冠攣縮性狭心症患者とコントロール例でp122の遺伝子および蛋白発現を比較検討した。 その結果、冠攣縮性狭心症患者から採取された培養皮膚線維芽細胞においてpl22遺伝子発現と蛋白発現がコントロール例に比して有意に亢進していることを見出した(Arterioscler Thromb Vasc Biol 2010)。PLC活性との関連を見ると、大動脈平滑筋細胞にp122蛋白を過剰発現させるとPLC活性が亢進し、さらにアゴニスト(アセチルコリン)刺激に対する細胞内カルシウムイオン濃度が上昇することを見出した。p122遺伝子発現亢進の機序としては、p122遺伝子の5'側promoter解析により、-228G/Aならびに-228A/A変異が冠攣縮性狭心症男性患者の約10%で認められ、それらの変異によるpromoter活性が亢進することを明らかにした。 以上より、冠攣縮性狭心症患者におけるPLC-δ1活性亢進の機序の一つとしてp122蛋白の発現亢進が示唆された。
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