研究概要 |
肥満細胞は心臓においてもその存在が確認され、心疾患で増加し、レニンやヒスタミンの共通の供給源であることから、心臓病の病態と深く関係があることが示唆される。本研究の目的は、心不全の発症・進展過程での、肥満細胞とそれから放出されるレニンやヒスタミンの果たす役割を明らかにし、レニンやヒスタミン、肥満細胞を標的とした新たな心不全治療戦略の基礎を確立することである。我々は昨年度までに、横行大動脈縮窄術による圧負荷モデルにおいて、心房での肥満細胞浸潤が亢進し、心房線維化や心房細動の発症に肥満細胞を起点とした機序が重要な役割を果たしていることを明らかにした(Liao et al., JCI, 2010)。肥満細胞は血行力学的負荷によって心房組織に浸潤し、線維形成性サイトカインであるPDGF-Aの産生を増加させ、心房リモデリングや心房細動の発症を促進していた。本年度は、アンジオテンシンII (Ang II)負荷モデルにおいても、心房への肥満細胞浸潤が心房リモデリングや心房細動の発症に関与しているか検討を行った。8週齢の野生型マウスに浸透圧ポンプを用いてAng II (2mg/kg/day)の持続的皮下投与を行ったところ、投与後14日目に、心房の線維化をMasson Trichrome染色にて認め、心房への肥満細胞浸潤をトルイジンブルー染色にて認めた。心臓を摘出してランゲンドルフ灌流下に心房を電気刺激すると、Ang II投与群で心房細動が誘発された。一方で、クロモリンを同時に投与して肥満細胞を安定化させておくと、Ang II負荷した場合でも心房の線維化が軽減し、心房細動の誘発性も有意に低下した。したがって、Ang II負荷モデルにおいても、心房組織への肥満細胞の浸潤と活性化、それによって生じる心房の構造的リモデリングが、心房細動の発症に重要であることが示唆された。
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