研究概要 |
[目的]心臓リモデリングは高血圧性心疾患や心筋梗塞後の心不全の本態であり、レニン・アンギオテンシン系や交感神経系などの体液性因子の活性化がその発症・進展に関与している。ベータ遮断薬は心不全治療の第1選択薬でありベータアドレナリン受容体シグナル(β-AR)は心臓リモデリングの進展に重要な役割を演じていると予測される。平成21年度は平成21年度に作成したcAMPにより活性化される新しいβ-AR構成因子Epac (exchange protein directly activated by cyclic AMP)ノックアウトマウスを用いてEpac1の心臓リモデリングにはたす役割を検討した。 [方法]心臓に高発現を示すEpac1ノックアウトマウス(Epac1KO)とWT(wild type)を用いてイソプロテレノール(ISO)による慢性刺激(60mg/kg/day)を行った。 [結果]ISO投与後の心機能(LVEF)低下の割合はEpac1KOではWTに比べて有意に抑制されていた(WTvs. KO:14±1-5vs.1.6±1.2%, n=10-11, P<0.01)。心肥大ならびにTUNEL染色によるアポトーシス陽性細胞の割合は有意差がなかったが、Masson-Trichrome染色による線維化領域はEpac1KOではWTにくらべて有意に減少していた(WTvs.KO:5.3±1.6vs.0.6±0.2%, n=5, P<0.01)。EGFレセプター-(EGFR)-ERK経路の活性化は心筋線維芽細胞の増殖を誘導するため、ウエスタンブロッティング(WB)と免疫染色(IHC)を行ったところ、WBの結果ではWTはEpac1KOに比べてEGFR(Tyr1088)は約2倍、ERK(Tyr202/Tyr204)は約1.5倍高く、いずれのリン酸化亢進も線維化領域に限局していた。 [結論]Epac1はEGFR-ERK経路の活性化による心臓リモデリングの形成に重要である。
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