申請者のグループは、Suppressor Of Cytokine Signaling-3 (SOCS3)をクローニングし、その分子作用機序、生理機能や病態との関連(炎症、肥満、心筋肥大、ウイルス性心筋炎)について報告してきた。さらに、心筋細胞におけるSOCS3の機能を明らかにするために、心筋特異的SOCS3ノックアウトマウス(SOCS3-CKO)を作成した。その結果、このマウスが生後7ヶ月までに心不全を発症し死亡することを見いだした。心筋特異的SOCS3ノックアウトマウスの心臓は拡大し収縮能の低下が顕著であったが、線維化、肥大や炎症細胞浸潤は認められず、通常の心不全とは異なる病態が推測された。SOCS3-CKOのシグナルの活性化をウエスタンブロットで行った。また、ジーンチップ解析を行い遺伝子プロファイルの作成を行った。その結果、SOCS3-CKOではgp130の下流シグナルであるSTAT3、ERK1/2やAKTが活性化されていた(図2参照)。また、ジーンチップ解析では、gp130の標的遺伝子と心不全マーカーの発現の亢進を認めた。これらの結果より、SOCS3-CKOの心筋では、老化に伴いgp130シグナルの持続的な活性化が起こり、これによって心筋の機能不全に陥り、心不全が誘発されていると推測された。SOCS3-CKOの心不全発症において、gp130経路がその原因となっているか否かを調べるために心筋特異的gp130/SOCS3欠損マウスを作成した。その結果、心筋特異的にgp130を欠損させることによって、SOCS3-CKOの心不全はレスキューされた。この実験によって、gp130単独の心筋特異的欠損マウスも生後8〜10ヶ月で、SOCS3-CKOとは異なるタイプの心不全で死亡することが明らかとなった。老化に伴う心不全の発症において、サイトカインの機能を調節するSOCS3が重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。今後はこれらの病態において、サイトカインとその制御因子であるSOCS3の役割をさらに詳細に検討する予定である。
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