研究概要 |
伸展刺激感受性チャネル(TRPV2)の筋変性疾患における病態的意義を確立するとともに治療創薬標的としての可能性を検討した。恒常的にTRPV2を発現させたHEK293ヘイオン透過部位に変異を導入したチャネル活性のないTRPV2変異体を共発現すると各々TRPV2は細胞膜上でオリゴマーを形成しCa^<2+>および2-APBによるCa^<2+>反応性が減弱した。TRPV2変異体を骨格筋特異的に過剰発現させたマウス(このマウス骨格筋は正常であった)を筋ジストロフィーマウス(mdx)と交配させてmdxのTRPV2活性を抑制したマウス(4,10,22週令)を作製した。このマウスはmdxに比し血中クレアチンキナーゼ活性の有意な減少と組織HE染色で観察される筋変性の減弱、中心核の減少が認められた。グリップテストによっても機能的改善効果が示された。mdx筋fiberは2-APB刺激、外液5mM Ca^<2+>刺激に反応して細胞内Ca^<2+>濃度が上昇しTRPV2の活性化を支持した。そしてこのTRPV活性は変異体導入により顕著に抑制された。変異体の導入によりmdxのTRPV2細胞膜発現も抑制された。mdx筋は細胞内Ca^<2+>濃度の異常上昇を反映してCaMKIIのリン酸化が亢進していたが変異体の導入によりリン酸化の亢進は抑制され、細胞内Ca^<2+>濃度のin vivoにおける正常化が示唆された。細胞骨格系蛋白質欠損による筋ジストロフィー筋細胞はTRPV2の細胞膜発現が亢進し活性化されていること、その活性を抑制することによりCa^<2+>シグナル異常、筋細胞膜TRPV2濃縮、筋変性が緩和されることが明らかになった。TRPV2は筋ジストロフィーの優れた治療標的になることが判明した。
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