研究概要 |
伸展刺激感受性チャネル(TRPV2)の筋変性疾患における病態的意義を確立するとともに治療創薬標的としての可能性を検討した。TRPV2を特異的に阻害することによりmdxマウス,BIOハムスターの筋ジストロフィーが改善されたのでTRPV2特異阻害剤は筋ジストロフィー、心筋症治療に有効な可能性が高い。そこでTRPV2阻害剤を探索するため、TRPV2発現細胞を用いたハイスループットスクリーニング法(HTS)により、同定した既知化合物A,B(IC_<50>=~20μM)の構造をもとにインシリコで類似化合物を探索し、約200種類の化合物を選択し、さらにスクリーニングを行った。その結果、A,Bより低濃度域(IC_<50>=~1μM)で阻害活性をもつA3,A48,A63,B6を見出した。これらのうちA3,A48,A63はマウスTRPV2だけでなくヒトTRPV2も阻害した。これらの薬剤は、TRPファミリーチャネルの調べた範囲内で他のメンバーTRPV1、TRPC1をほとんど阻害しなかった。心筋症モデル動物を用いて上記新規TRPV2阻害剤の心筋症病態改善効果を調べた。7週令の動物に2週間あるいは4週間経口投与したところ、TRPV2阻害薬を投与しない対照群に比べて、心エコーにより評価した心機能の有意な改善、心筋変性のマーカーである血中心筋トロポニンI量および心筋組織切片染色により評価した線維化占有率の有意な減少が確認された。対照的に、TRPV2阻害作用を有さないA65、A47、B33は心機能改善を示さなかった。従って、これらTRPV2を阻害する化合物は心筋症の筋変性抑制効果があることが判明した。本研究により探索された新規薬剤はTRPV2を特異的に阻害する実験ツールとして有力であるとともに移殖しか治療手段がない拡張型心筋症などに対する有効な治療薬候補となると思われる。
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