これまでの我々の検討によりストレス環境下においては、ストレス応答性チロシンキナーゼPYK2が、NADPH-Oxidaseの活性化を介し活性酸素産生を増強し、引き続いて産生された活性酸素が、サイトカイン転写、細胞遊走機能の亢進、細胞生存を促進し、動脈硬化、心筋の圧負荷・虚血後の組織リモデリング、血管新生、内皮細胞障害後の内膜肥厚などの病態を促進すると考えられる。そこでPYK2を抑制すればそれらの病態の制御がかのうになると考えられる。今回、PYK2-mRNAにたいするhnRNAを作成し、adenovirus(あるいはlentivirus)vectorに組み込み、マウスに経静脈的に導入したところ、血管内皮細胞に高効率の発現がみられ、PYK2の発現量が30%以下に抑制された。 このマウスにおいて、ガイドワイアによる大腿動脈内膜障害モデルを作成し、内皮細胞障害後の血管再内皮化が促進され内膜肥厚が抑制されることを見出した。 さらにApoE欠損動脈硬化モデル、あるいはAngiotensinII持続注入モデルにおいて、それぞれ粥状動脈硬化の抑制が見られ、また、炎症性リモデリングが抑制された。そのメカニズムとして障害血管においてサイトカイン産生が抑制され、活性酸素の発現が低下していた。 さらに、大動脈結さつによる圧負荷モデルでもadenovirus組み換えPYK2-hnRNA導入マウスにおいて心肥大の抑制が見られた。これらの結果により、PYK2が血管の炎症性のストレス性病変に中心的役割をはたし、PYK2に対する標的療法の開発が、これらの疾患の新たな治療法開発につながると考えられた。現在これらの成果を取りまとめ論文を投稿準備中である。
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