慢性閉塞性肺疾患(COPD)の病態生理は、肺でのマクロファージを主体とする炎症細胞浸潤と炎症性メディエータの放出である。しかしそのメカニズムは未だよく解明されていない。われわれは、膜タンパクであるテトラスパニンCD9とCD81のダブルノックアウト(KO)マウスが肺に炎症を自然発症することを以前に見出した。本研究では、(1)CD9 KOマウスを用いて肺に炎症の起こるメカニズムを明らかにする。(2)ヒト肺の炎症にCD9やCD81の異常が関与していないかを検討することを目的として実験を行った。その結果、(1)CD9の機能を抑制したマクロファージをLPSで刺激すると、TNF-αやMMP-2、MMP-9の産生亢進を認め、CD14/TLR4受容体を介する炎症性シグナルが増強した。(2)CD9 KOマウスをLPS刺激すると、ワイルドタイプマウスに比べ肺胞マクロファージの増加と形態学的活性化を認め、肺胞洗浄液中のTNF-αやMMP-2、MMP-9活性が上昇していた。(3)ヒトCOPD患者から末梢血単球を分離し、CD9の発現をフローサイトリーで検討したところ、他の呼吸器疾患患者に比べ発現低下していた。以上から、CD9はin vitroにおいてマクロファージの活性化を抑制し、in vivoにおいて肺の炎症を抑制することが示された。また単球におけるCD9の発現低下は、ヒトCOPD発症の一因である可能性が示唆された。
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