平成21年度までに、アレルギー性素因を有し呼吸器症状のない若年成人群において、上皮増殖因子受容体(epidermal growth factor receptor(EGFR))遺伝子上のハプロタイプブロックの塩基変異パターンの違いが、将来の成人発症喘息のハイリスク因子のひとつと考えられる<無症候性気道過敏性(Asymptomatic airway hyperresponsiveness(Asymptomatic AHR)>の有無を決定する要因となることを見出した。 平成22年度は、現在は呼吸器症状を有しない若年成人群から、小児喘息の既往者(past-asthmatics;将来の成人喘息発症の危険群のひとつ)、小児喘息と診断されていないが喘鳴症状を小児期に経験した者(self-reported past-wheezers ; 小児喘息既往者とは近い存在と予想される群)などを抽出して、それ以外の群(喘鳴症状の既往のない群;never-wheezers)との間の、遺伝子学的、呼吸生理学的、アレルギー感作的な差異や類似点を検討した。さらに、past-Wheezersを気道過敏性のある群(with AHR)とない群(without AHR)に分けて検討した。 1)遺伝子学的検討:past-asthmaticsとpast-wheezersを合わせた群では、never-wheezers群との間に、上皮増殖因子受容体(EGFR)遺伝子多型とProtease activating receptor-1(PAR-1)遺伝子多型の組み合わせの頻度に有意差が認められた。即ち、past-asthmaticsと past-wheezersはnever-wheezersとは異なる遺伝子的背景をEGFRとPAR-1上に同時に有している可能性が示唆された。 2)呼吸機能面での検討:past-asthmaticsやpast-wheezers with AHRは、1秒量(%FEV_1:体格・性別から予測される正常基準FEV_1値との比率)や最大中間呼気流量(%FEF_25-75;正常基準FEF_25-75値との比率)が、never-wheezersやpast-wheezers without AHR群よりも低かった。 3)アレルギー感作面での検討:past-asthmaticsやpast-wheezers with AHRは、血液好酸球や血清IgE、とくにハウスダストに対するIgE抗体量が、never-wheezersやpast-wheezers without AHR群に比べて高かった。 以上より、昨年度までの研究で、現在無症状なアトピー素因を有する若年成人に気道過敏性(Asymptomatic AHR)の有無を決定する要因として、EGFR遺伝子の関与を認められた一方、本年度に行ったpast-asthmaticsやpast-wheezers(いずれも喘息症状を生じるような気道病態にまで過去に-過性に至ったことが考えられる)群の遺伝子学的、呼吸機能的、血清学的な面からの観察結果から、過去の症状の有無を決定した要因には、EGFR+PAR-1のような別の遺伝子学的背景が考えられ、またこうした過去の症状を有した群では呼吸機能の潜在的な低下やアレルギー感作の亢進が認められ、将来の成人気管支喘息の発症の温床になる可能性が示唆された。
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