敗血症性ARDSではToll様受容体(TLR)刺激に酸化ストレスが加わることにより、特にマクロファージにおいてNF-κBを介した炎症性サイトカインの発現が相乗的に亢進している。Keap1は細胞内の酸化ストレスを感知し、転写因子Nrf2の活性化を介した抗酸化ストレス遺伝子の発現を誘導することで、敗血症性ARDSにおけるTLR刺激と酸化ストレスの相乗作用を遮断し、炎症性サイトカインの産生を抑制することが期待される。本年度研究では動物モデルを用いてNrf2活性化とNF-κB抑制の関係について検討した。実験にはNrf2欠損マウスおよび同系の野生型マウスを用い、TLR3刺激としてインフルエンザウィルス(PR8)、TLR4刺激としてリポ多糖体(LPS)を使用した。野生型マウスの肺組織ではPR8、LPS刺激によりマクロファージ中心にNrf2の活性化が認められた。NEf2欠損マウスではPR8、LPS投与後の肺炎症が野生型マウスに比べ顕著であり、死亡率も有意に高かった。同マウスの肺組織およびマクロファージではPR8、LPS投与後のNF-κB活性化とともにTNF-α、KCなどの炎症性サイトカインの発現が亢進していた。PR8、LPS投与に喫煙を付加すると、Nrf2欠損マウスでは肺組織における酸化ストレスが高まり、NF-κB活性化や炎症性サイトカイン発現の顕著な先進とともに肺炎症、死亡率が単独投与群に比べ有意に増加した。以上より、Nrf2/Keap1システムはTLR刺激および酸化ストレスで活性化され、NF-κBの活性化や炎症性分子の誘導を抑制することで、敗血症性ARDSに対し個体レベルで防御的に作用するものと思われた。
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