前年度までの研究において、Nrf2/Keap1システムはToll様受容体(TLR)刺激および酸化ストレスで活性化され、NF-κBの活性化や炎症性分子の誘導を抑制することで、敗血症由来肺損傷に対し個体レベルで防御的に作用することをマウスモデルで明らかにした。同モデルではNrf2活性化が主にマクロファージで見られたこと、TLRsがマクロファージに高発現していることより、マクロファージにおけるNrf2活性化機序を解明し、それに基づいたNrf2活性化法を同細胞で確立し、今後の治療応用に繋げることを本年度目標として研究を行った。Nrf2は細胞外から流入した、あるいはTLRにカップリングされたNADPHオキシダーゼより産生された活性酸素種をKeap1が感知することで活性化されることに加え、上皮成長因子受容体(EGFR)からのシグナリングによるリン酸化修飾で活性化することが明らかになった。EGFR各シグナル経路のインヒビターを用いた検討より、同シグナル経路のうち、マクロファージではPI3K/Akt経路がNrf2活性化に重要であることが示された。Keap1特異的なsiRNAを用いたKeap1抑制法を確立した。Keap1-siRNAをマクロファージに導入すると顕著なNrf2の活性化が観察された。これらの細胞ではTLR刺激時のNF-κB活性化の程度が非導入細胞に比べ抑制されていた。一方、EGFRリガンド投与は濃度依存性にNrf2を活性化し、同様にTLR刺激時のNF-κBの活性化を抑制した。これらの方法を利用したマクロファージにおけるNrf2活性化は、細胞レベルの炎症抑制に有望な方法と思われ、今後個体レベルで抗炎症効果、ひいては敗血症性ARDS抑制効果を検討する予定である。
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