本研究の目的は、肺がんの新規治療標的となり得る上皮間葉系細胞転換(EMT)関連分子を同定することである。研究代表者は、これまでにE-cadherinとVimentin分子の発現パターンにより肺がん細胞株と臨床検体を上皮系と間葉系に分類することが可能であることを発見した。平成21年度は、さらに、既知の重要なEMT誘導遺伝子の肺がん細胞株における発現を定量的PCRにて測定し、それらの発現と上皮系または間葉系の性質との相関関係を検討した。結果は、幾つかのEMT誘導遺伝子は細胞の間葉系の性質と強い相関関係を示した。以上の結果は、それらのEMT誘導遺伝子が肺がん細胞の間葉系の性質の維持に寄与していることを示唆した。次に、間葉系の性質と最も強い相関関係を示したEMT誘導遺伝子の肺がんの悪性形質獲得への寄与を評価した。このEMT誘導遺伝子をRNA干渉によってノックダウンしたところ増殖抑制とアポトーシス誘導を示した。この結果は、このEMT誘導遺伝子が肺がんの治療標的となり得る事を示唆した。これらの結果を受けて、平成22年度は、この遺伝子を標的とした治療の臨床応用の可能性を検討するために、ベクターを用いた遺伝子ノックダウンによるヌードマウスに異種移植した肺がん細胞株の増殖抑制効果を検討する。
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