特発性間質性肺炎の原因の一つにストレスタンパク質の関与が指摘されている。遺伝性の間質性肺炎ではSFTPC、ABCA 3の遺伝子異常が指摘されているが特発性間質性肺炎の原因を説明できない。そこでタンパク質の異性体化に注目した。とくにアスパラギン酸はL-体からD-体への変化が起こりやすく、高次構造異常を起こしたタンパク質が細胞内に蓄積し、小胞体ストレスを誘発し、上皮-間葉系移行(EMT)を起こすとの仮説を立てた。アスパラギン酸が異性体化は修復酵素(PCMT1)によってD-体化したものをL-体に戻る。A549細胞(肺胞上皮由来細胞株)を用い、PCMT1-shRNAによって遺伝子発現をノックダウンし、細胞の形態変化、生化学的性質を検討した。上皮様の形態を示すA549細胞は細胞相互の接着性を失い、線維芽細胞様に変化し、PCMT1、E-cadherinの発現は低下した。一方、間葉系のマーカーVimentinは発現が認められた。小胞体ストレスマーカーGRP78の有意な増加が認められた。コントロール対照としてshRNAのヘアピンループの塩基配列にポリメラーゼIIIの終結シグナルを導入したものを遺伝子導入した。アスパラギン酸異性体化タンパク質の同定のためにD-体のアスパラギン酸特異的に切断するエンドペプチダーゼ(paenidaseI)を用い、酵素未消化と酵素消済みのA549細胞抽出液を2次元電気泳動で分析し、異性体化タンパク質の増加が確認できた。ヒトの肺線維症及びその他の疾患での肺凍結標本をウエスタンブロット解析し、PCMTIの低下、小胞体ストレスマーカーGRP94の上昇が確認できたが、GRP78の上昇傾向が認められるものの有意ではなかった。PCMT1の発現低下、小胞体ストレスの誘導が確認され、特発性肺線維症の原因の一つと考えられた。
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