これまでの研究より、αデフェンシンを抗菌薬として使用するための問題点として肺線維化の可能性が考えられる。そこで今回は、in vitroにおいて様々な肺内細胞(気道上皮細胞、肺胞上皮細胞、肺線維芽細胞)を用いて、αデフェンシンによる増殖因子やサイトカインの産生の有無、またその細胞間での違いを検討した。上皮細胞ではαデフェンシンによってインターロイキン8の産生が強く亢進されるが、肺線維芽細胞ではインターロイキン8の産生は弱く、逆にTGF-βやVEGFなどの増殖因子の産生が強く亢進された。また、上皮細胞ではTGF-βやVEGFなどの増殖因子の産生はみられなかった。この様に細胞の違いによってαデフェンシンによる刺激で産生されるメディエーターの違いがみられた。これらの結果からαデフェンシンが主に産生される場所(近隣に存在する細胞)の違いにより、病態(炎症に進んだり、線維化に進んだりする)が異なってくる可能性が示唆された。 また、現在進行中であるが、αデフェンシンをマウスの肺内に注入した後の肺の組織学的変化を検討している。まだ十分な解析に至っていないが、ARDSを起こす量の約10分の1量のαデフェンシンを持続的に1週間マウスの肺内に投与し、数日後にマウスの肺を検討したところ、気道を中心とした部位において慢性炎症が起っている可能性が示唆されている。これらの結果からもヒトαデフェンシンの生体内への投与は副作用が生じる可能性が高く、今後は数を増やし、長期間での肺への線維化を含めた影響を検討する予定である。
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