細胞周期のG1期を制御する分子であるCyclin D1は、乳癌や肺癌をはじめとする多くの癌において、その発現レベルが亢進していることが報告されており、細胞癌化に重要な機能を持つと考えられている。最近の遺伝学的研究から、Cyclin D1が、当初報告されていたCyclin Dependent Kinase4/6 (CDK4/6)を活性化し、細胞周期を制御する機能以外に、転写制御に深く関わる可能性が示され始めている。本研究では、肺癌をモデルとして、細胞癌化においてもCyclin D1が転写因子の活性を修飾することで細胞癌化に関与しているという仮説のもとに解析を進めている。H. 20年度までの研究で肺の器官形成に関わることが報告されているNkx2.1とRunx3の2分子と相互作用し、その転写活性化を抑制する知見を得ており、H21年度はこの相互作用の生理学的・病理学的な意義の検討をすすめた。現在はRunx3との相互作用の肺癌形成における機能解析に注力しておりCyclin D1がRunx3-p300複合体形成を阻害することで細胞周期阻害分子p21の転写を抑制し、腺癌細胞の増殖を亢進させうることを明らかにした(投稿準備中)。Nkx2.1に関しては、肺上皮細胞の分化マーカーの発現制御とともに、腺癌細胞の上皮・間葉転換を制御することが報告されているが、Cyclin D1はその活性を抑制しうるという知見を得つつあり、次年度の研究でその分子機構を明らかにしたいと考えている。
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