悪性胸膜中皮腫は、漿膜中皮細胞に由来する予後不良の悪性腫瘍である。アスベスト曝露後約40年で発症することが知られており、多段階に遺伝子異常が蓄積されると推定される。本研究は、悪性胸膜中皮腫の細胞学的・分子生物学的解析を行い、癌幹細胞の同定をおこなうことを目的としている。 本年度の研究において、主として中皮腫細胞株の分子生物学的解析を行った。悪性中皮腫は一般に抗癌剤治療に抵抗性を示すことが多く、抗癌剤によるアポトーシスの機序を解明することは、非常に重要である。再発白血病の治療に用いられている抗癌剤:亜ヒ酸(As_2O_3)を用いて検討した結果、中皮腫細胞株(H2052)は抗癌剤の濃度依存性にcaspase-3の活性化が起こり、アポトーシスを誘導した。この過程においてJNKが活性化され、さらにERKの活性化が惹起された。JNKはcaspase依存性にアポトーシスを引き起こし、ERKはJNKとのcross talkを介してcaspase非依存性アポトーシスを起こしていた。一方、細胞株(H28)は抗癌剤でcaspase-3が活性化されず、亜ヒ酸でアポトーシスを起こしていなかった。しかしこの株はSrc阻害剤でアポトーシスを誘導できた。このように中皮腫においては、腫瘍細胞によりアポトーシスを起こす機序が異なり、その解析により効果的な抗腫瘍機構を明らかにしてゆく。
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