スリット膜は糸球体上皮細胞に備わる特殊に分化した細胞間接着装置であり、糸球体バリアー機能の要構造とされている。近年スリット膜を構成する分子がチロシンリン酸化されることが明らかにされ、バリアー機能がリン酸化カスケードで解析されるようになった。SHPS-1(SIRP-α)は、細胞内にITLMモチーフを有する膜蛋白である。様々な刺激でSHPS-1のITIMがリン酸化されると、チロシン脱リン酸化酵素SHP-1/SHP-2がこれに結合して膜近傍に集合し活性化される。活性化されたSHP-1/SHP-2は周囲の分子を脱リン酸化することにより、さらにシグナルが下流に伝達される。本研究で我々はこれまで、糸球体上皮細胞がSHPS-1を特異的に発現していることを明らかにするとともに、細胞内ドメインを欠失する変異型SHPS-1を発現するマウスの解析することにより、SHPS-1が上皮細胞足突起の構造と機能に重要な分子であることを明らかにした。即ちこれまでの研究結果により、糸球体バリアー機能の維持にチロシン脱リン酸化系が関与することが強く示唆された。 そこで今年度は、培養糸球体上皮細胞を用いて、SHPS-1の欠失が細胞にどのような影響を与えるか、そのメカニズムを解明するために培養細胞を用いてin vivoでの解析を進めている。SHPS-1を欠失させる手法として、siRNAを用いる方法と、上記の遺伝子改変マウスから糸球体上皮細胞を分離し、サイクリン依存性キナーゼ(CDK4)を強制発現させて不死化させる方法とを試みている。現在これらの手法によりSHPS-1をノックダウンさせた細胞や、変異型SHPS-1を発現する細胞株が得られつつあり、研究の進展が期待される。
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