研究概要 |
我々はBrdUラベリング法を用いて、組織幹細胞に共通する「分裂速度の非常に遅い」という性質を持つ細胞、いわゆるSlow-cycling Cellが成体腎に存在することを確認し、さらに腎障害後の再生過程でその細胞が増殖・分化し尿細管再構築に大きく貢献する、腎幹細胞的な役割を果たすことを明らかにしてきた(JAm Soc Nephrol 14 : 3138-3146, 2003, JAm Soc Nephrol 17 : 188-98, 2006)。 本研究ではこの腎幹細胞に焦点を当てて、加齢に伴う腎機能低下と腎幹細胞数の相関を検討した。具体的にはOsmoticポンプを用いて、様々な週齢のラットに1週間BrdUラベルし、2週間の観察期間をおいて、BrdU陽性細胞を免疫染色により検出した。これにより腎幹細胞がBrdU標識される。その結果、加齢に伴い賢幹細胞数は減少することが判明した。さらに上記ラットに虚血・再灌流障害急性腎不全モデルを作成したところ、障害後観察される増殖細胞(再生細胞)の数は加齢に伴い減少していることをPCNA染色により確認した。一方、加齢に伴い尿細管周囲の毛細血管網の減少も観察され、腎幹細胞の数は血管内皮細胞由来因子により制御されている可能性が高いことが判明した。 以上のことから、加齢とともに生じる腎機能低下は、新たに作られる尿細管細胞の供給源となるべき腎幹細胞が少ないためと予想された。さらに、高齢者における薬剤性腎障害のリスクが増大するのは、再生細胞を作り出す腎幹細胞の減少により、尿細管再生がきちんと行われないためである可能性が示唆された。この腎幹細胞の数を増やすことができる治療薬の開発が将来、腎不全患者を減らす最短の道かも知れない。
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