本研究は糖尿病性腎症の発症機序を解明し、新しい治療法を開発することを最終の目標にしている。この目的の為に、我々が同定した新規糸球体特異的遺伝子であるR3hdml遺伝子(以下R3h)の機能解析を行なっている。R3h遺伝子の機能解析の為に、R3h遺伝子欠損マウス(以下R3hKOマウス)を作成した。R3hKOマウスは正常に生まれ、成長過程も野生型と比べ差を認めなかった。腎組織の光学顕微鏡下における観察においても野生型に比し差を認めなかったが、電子顕微鏡下での観察ではR3hKOマウスでは野生型に比し有位に基底膜の部分的な肥厚が認められた。また、R3hKOマウスにストレプトゾトシン投与にて糖尿病を惹起したり、抗糸球体膜抗体を投与して糸球体腎炎を惹起させた所、野生型に比し、有意に腎機能の悪化やアルブミン尿の増加を認めた。この結果より糸球体の構成細胞であるポドサイトに特異的に発現しているR3h遺伝子は糸球体の恒常性の維持に重要な役割をしていることが明らかとなった。この結果を受け、現在我々はR3h遺伝子/タンパク質の機能に関してR3hKOマウス並びに培養ポドサイトを用いて研究を進めている。R3hタンパクに対する特異抗体を作成した所、R3hタンパクはポドサイトの核周囲、特に小胞体に存在することが明らかとなった。in silicoによる解析ではR3h遺伝子はセリンプロテアーゼ阻害活性を有することが予測されている。現在小胞体における、あるタンパク質のプロセッシングに関与している可能性を示唆する実験結果が得られている。
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