研究概要 |
IgA腎症の発症に扁桃感染が関連していることは古くから報告されている。IgA腎症患者の扁桃腺摘出後に肉眼的血尿を呈するなど、臨床的にも扁桃と腎炎の関連を示唆する所見もある。このため、IgA腎症の治療に扁桃腺摘出術と副腎皮質ステロイドホルモンを大量に投与する治療もおこなわれている。本研究では、IgA腎症の治療目的で扁桃摘出を行った摘出扁桃(n=23)とそれ以外の疾患で扁桃摘出術を行った扁桃(n=22)における遺伝子発現の差をマイクロアレイ法を用いて比較検討した。IgA腎症患者の扁桃からは主に筋肉に関連する遺伝子群と免疫に関連する遺伝子群が認められ、12種類の遺伝子の発現増強を確認した。免疫系で遺伝子発現の更新していた遺伝子はAPOBEC2, CALB2, DUSP27, and CXCL11であった。これらの遺伝子は、IgA腎症患の発症の機序と関連する可能性があるため、さらにIgA腎症患者73名について確認したが、扁桃でのAPOBEC2の有意な発現増強が見られた。また、血清IgG値は扁桃のAPOBEC2 mRNAの発現と逆相関することも見出した。これらの結果は扁桃腺におけるAPOBEC2がIgA腎症発症に関連していることを示唆する。そこでIgA腎症の治療による寛解導入との関係を約2年間にわたって追跡調査したが、IgA腎症患者をAPOBEC2の発現の中央値で分けて比較した。しかし、APOBEC2の発現の多い群で必ずしも寛解導入が遅くなるわけではなかった。以上の結果より、IgA腎症の発症において、扁桃におけるAPOBEC2の発現亢進が何らかの役割を果たしていると推定できるが、この意義についてはさらたる研究が必要である。
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