研究概要 |
慢性腎臓病患者数は本邦にて約1,330万人超にのぼると推計されておりcommon diseaseとして再認識されている。慢性腎臓病は、末期腎不全及び心血管合併症の危険因子であり、早期からの予防医療的措置が必要である。CKDの主要な原疾患は、糖尿病性腎症、腎硬化症、慢性腎炎等であるが、末期腎不全に至る際に糸球体硬化・尿細管間質の線維化が共通して観察される。中でも、尿細管間質障害は腎機能予後の重要な予知因子であるが、傍尿細管毛細血管(peritubular capillary : PTC)障害に関連した尿細管間質虚血/低酸素が重要な増悪因子となる。 これまでに、我々は血管新生抑制因子tumstatin peptide, endostatin peptide, NM-3の糖尿病性腎症における治療効果を報告してきた。Vasohibin-1 (VASH-1)は内皮細胞より血管新生促進因子VEGF刺激により産生される血管新生negative feedback制御因子である。VASH-1はsprouting等の活発な血管新生時には発現が低下し、血管新生が終息する部位にて発現増加し、血管新生の終息/血管の成熟に関与すると考えられる。一方、VASH-1のhomologueであるVASH-2はVASH-1に拮抗し血管新生終息を阻害し、未熟な血管数増加を持たらす。 本研究にて、1型及び2型糖尿病モデルマウスにおけるVASH-1発現adenovirus vectorによる治療効果(アルブミン尿抑制,糸球体肥大の抑制,メサンギウム基質増加の抑制,単球浸潤の抑制)を観察し得た。VASH-1投与による腎症治療効果の作用機序として、VEGF受容体flk-1発現亢進/リン酸化の抑制、メサンギウム細胞への直接作用によるMCP-1, RAGE, TGF-β等の発現制御作用が観察された。一方、2型糖尿病マウス(db/db)モデルにて、VASH-1によるアルブミン尿減少効果,糸球体足細胞発現蛋白異常の改善効果が観察され、培養podocyteを用いた検討で高等濃度培養条件下におけるVasohibin-1によるpodocyte形質維持効果が観察された。CKD患者血清中のVasohibin-1濃度については、eGFR,尿蛋白等との有意な相関は認めず、尿中Vasohibin-1はeGFRと有意な正の相関を示し、中等度以上の尿細管間質障害群にて低値傾向を示した。 本検討により、血管新生negative feedback制御因子VASH-1の外因性投与による糖尿病性腎症治療への応用の可能性が、そして尿中Vasohibin-1のCKDバイオマーカーとしての可能性が示唆された。
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