我々は本邦の代表的慢性腎炎の一つである「IgA腎症の発症には、S.aureus感染が深く関連する」との仮説に基づき、患者血液中IgA抗体の特徴やT細胞活性化様式について、同細菌膜性抗原との関係から研究した。抗体の研究では、IgA腎症(IgAN群)患者群、MRSA関連腎症(MRSA)患者群、正常(N)群の各血清を対象とした。IgAN患者は、S.aureusに対して高抗体価を産生するhigh responder(高反応性)でありながら、かつ産生されるIgAはlow avidity(低親和性)であり、そのことが免疫系を介する抗原物質の除去機構を免れての腎糸球体へのIgA免疫複合体の沈着と持続の要件である可能性が示唆された。T細胞の特徴の研究では、糸球体へのIgA沈着を何れも特徴とする、IgA腎症、紫斑病腎炎、およびMRSA腎炎患者について、3色FACS解析を行い、菌体抗原物質に対する様々なT細胞活性化様式と免疫状態を表すeffector T cellsの活性化状態を解析した。一般抗原が関与する腎炎では、monoclonalなTCRVβT細胞のexpansionが生じ特異抗体が産生され、対応抗原と結合し、腎炎惹起性の免疫複合体が形成されると考えられる。一方、S.aureusが産生するenterotoxinの如くのスーパー抗原によりT細胞が活性化すると、polyclonalなTCRVβT細胞がexpansionし、非常に多くのリンパ球が同時に活性化され、腎炎惹起性の免疫複合体が形成され、MRSA感染後腎炎や紫斑病性腎炎が発症すると考えられた。
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