血中renin angiotensin system (RAS)を抑制する塩分負荷が、腎線維化を進行させる機序を検討するため、片腎摘(uninephrectomy; U)後に抗胸腺細胞抗体(anti-thymocyte serum; ATS)の2回投与で作成した慢性進行性ATS腎炎ラットを正常塩分摂取(UAN群)と1%食塩水の飲水による高塩分摂取(UAH群)に分け、正常塩分摂取でshamオペをした(SN群)と血中・腎内RAS関連因子を検討し、以下の知見を得た。 1.血中レニン、angiotensin II (AII)はSN群に比してUAN群は低く、UAH群ではより低値であった。 2.SN群に比してUAN、UAH群では腎内のangiotensinogen (AGT)、AII、プロレニン、レニン、プロレニン受容体が増加し、尿中AGT排泄が増えていた。 3. UAH群は、3群のうちで血中レニン、AIIは最も低値で傍糸球体装置のプロレニン、レニンの発現が抑制されているにもかかわらず、UAN群よりも腎線維化進行、尿蛋白増加、血圧上昇がみられ、尿細管におけるプロレニン、レニンの著明な発現亢進が認められた。 4.プロレニン受容体の細胞内信号伝達因子PLZFは、SN群の腎にはほとんど認められないが、UAH群の間質単核浸潤細胞に認められた。 5.AII typel受容体(AT1-R)はSN、UAN、UAH群間で有意な差はみられなかった。 以上より、高塩分負荷は血中RAS、傍糸球体装置のプロレニン、レニンの発現を抑制するが、慢性進行性ATS腎炎においては尿細管のプロレニン、レニンの発現促進を惹起して腎線維化の進行に関与する可能性が示唆された。今後は高塩分負荷が尿細管レニンの発現や分泌に及ぼす機序を検討する。
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