まず、既知の尿毒素が血管平滑筋に及ぼす影響について検討した。培養ヒト血管平滑筋細胞にフェニル酢酸(PAA)・副甲状腺ホルモン(PTH)を添加し、増殖能、細胞形質および石灰化にどのような影響を及ぼすか、BrdU法を用い検討した。骨芽細胞の増殖を抑制したPAAO.5-5mMでは、血管平滑筋細胞の増殖に有意な影響を与えなかった。一方、hPTH(1-34)の作用についても検討を行ったところ、細胞増殖能は有意に低下するという結果が得られた。PTH関連蛋白(PTHrP)は血管平滑筋細胞の増殖に対して抑制的に作用することが知られており、今回の結果はhPTH(1-34)においてもPTH/PTHrP受容体を介することによりPTHrPと同様の作用が得られたものと解釈される。したがって、われわれの当初の仮説の一つである尿毒素による動脈硬化促進作用は、少なくともPAAおよびPTHについては証明されなかった。 次に、ヒト血管平滑筋細胞は細胞外液の高カルシウムおよび高リンの環境下では、血管平滑筋細胞としての性質を失い、骨芽細胞様の性質を帯びることが明らかになっており、実際にわれわれも、高カルシウムや高リンにより石灰化が促進されることをvon Kossa染色やAlizarin染色にて確認した。このモデルにおいて、終末糖化産物(AGE)およびペントシジンの影響を検討したところ、いずれも血管石灰化に対して促進的に作用する結果が得られた。現在、細胞形質について検討している。今後、AGEによる血管石灰化の促進機序について解析する予定である。また、培養ヒト血管内皮細胞における酸化ストレスについても検討を開始している。以上の、および今後得られると予想される成果から、糖尿病や腎不全における心血管イベントや血管石灰化頻度の増加および慢性腎臓病進展に対する機序解明の糸口がつかめるものと確信している。
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