研究概要 |
糖尿病や腎不全では血管の内皮・平滑筋の機能低下と動脈硬化・中膜石灰化などの器質的変化が進行する。血管平滑筋細胞は細胞外液の高カルシウム・高リンの環境下では、血管平滑筋細胞としての性質を失い、骨芽細胞様の形質を獲得する。われわれは、尿毒素物質の内皮細胞および血管平滑筋細胞への影響について検討するため、培養細胞を用いてin vitroでの作用やシグナルについて検討してきた。 まず、尿毒素物質であるフェニル酢酸(PAA)および終末糖化産物(AGE)による血管内皮細胞への影響について検討したところ、AGEおよびPMがTNFαおよびreactive oxygen species(ROS)の産生を促進する結果を得た。PMが濃度依存的にTNFαの産生を促進し、ROS阻害剤であるTEMPOLがこれを阻害するという結果については、原著論文として英文誌に掲載された。 一方、AGEはその受容体RAGEに結合し、下流のシグナルによって血管平滑筋細胞の形質転換が惹起されるものと考えられるが、その詳細な機序は不明である。われわれの実験結果から、AGE添加後48時間以内にNox1,Nox4,およびphox22のmRNA産生が誘導され、RUNX2,osteopontin,osteocalcinなどの産生が引き続いて生じることから、AGEはRAGE下流でNADPHオキシダーゼの活性化を惹起し、これにより産生されるROSが平滑筋細胞の形質転換に重要な役割を果たしているものと考えられた。さらに、AGEは有意に酸化ストレスの指標である過酸化水素の産生を亢進したが、逆にROS産生を抑制することによってAGE誘導性のCa沈着が抑制されることが明らかになった。また、AGEによりアポトーシスが促進されるという結果も得ており、今後さらなる検討が必要と考えている。
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