研究概要 |
多発性硬化症(MS)は,中枢神経内に活性化ミエリン反応性リンパ球が浸潤し,再発・寛解を繰り返す中枢神経系自己免疫疾患である。昨今,アトピー性皮膚炎,クローン病と同様に,飛躍的に有病率が急増している疾患で,発症機転には衛生状態の改善などの環境要因が,腸管の巨大な「常在細菌叢プールに変化」をもたらし,結果,多数のリンパ球が集族している「粘膜」で免疫応答が変化し,MSを発症誘導している可能性が提唱されている(衛生仮説)が,実証に至っていない。そこで「粘膜」に多数局在し,自然免疫と獲得免疫の橋渡しをするinnate T (iT)細胞と,interleukin-17 (IL-17)産生細胞の両者に焦点をあて,「MSと粘膜免疫機構の関連」について検討した。1. MS末梢血では健常者と比較して,CD4陽性分画のIL-17産生細胞頻度に差を見出すことができなかった。2. MSのdouble negative T (DNT)分画ではIL-17産生細胞は有意に高値であった。3. MSの疾患活動性による違いを検討してみると,MS再発期ではIL-17産生細胞およびIFN-γ産生細胞両者の頻度が寛解期に比較して増加しており,MS再発期のDNT分画にはdouble producer (IFN-γ+/IL-17+)が存在している可能性が示唆された。4. T_H-17系列のマスターレギュレーター分子であるRORγt分子の発現がMSのDNT分画で有意に高値であった。以上より,MS末梢血には「IL-17を産生する特異なDNT細胞分画」が存在することを新たに見出した。DNT分画はγδT細胞をはじめとしたiT細胞を多く含む分画であり,さらにiT細胞群には粘膜集積性の高い細胞系列が存在することから,MSと粘膜免疫の関係性の一端を見ている可能性が示唆された。
|