研究概要 |
通常型多発性硬化症(CMS)に特異的な自己抗体を検出するため、12名の健常者と12名のCMS患者の血清中の抗神経抗体を二次元免疫ブロットにより検出した。そのうち健常者の血清に反応せずCMS患者の血清に反応したスポットは合計35個であった。この中でPH5.8,分子量67kDに位置するスポットは、最も多い12名中5名のCMS患者の血清で反応が認められた。このスポットにつき質量分析を施行した結果、Stress-70 protein (GRP75; 75 kDa glucose-regulated protein)を同定した。GRP75はストレス蛋白の1つであるHeat shock protein 70 (HSP70) familyの1つで、MyckoらはHSP70がMBPなどの髄鞘蛋白と結合して、抗原提示細胞に作用し、抗原性を高める働きがあると報告している(Mycko MP et al, 2006)。またCMS患者の髄液中においてHSP70 familyに対するIgG抗体が上昇し、疾患活動性とも相関するといった報告もある(Chiba S et al, 2006)。1つの仮説ではあるが何らかのストレス刺激により通常はオリゴデンドログリアなどの細胞質やミトコンドリア内に存在するGRP75が細胞外に分泌され一部はMBPなどのミエリン蛋白と結合し、CMSの再発に関与するとともに血中において抗体産生が引き起こされる可能性を推測した。また本年度、CMS患者の血清中より解糖系酵素の一つであるPhosphoglycerate mutase 1 (PGAM 1)に対する自己抗体を検出し、その後のリコンビナント蛋白を用いたウエスタンブロットの結果、その他神経疾患および健常者と比較しCMS,視神経脊髄炎(NMO)患者で同抗体が高率に陽性になることを確認した。この結果は、両疾患の背景に存在する共通した病態メカニズムが抗PGAM1抗体の産生に係っている可能性を示唆するものと考えた。しかし今回の検討では血清抗PGAM1抗体は、健常者やその他神経疾患患者においても約3割が陽性となるため、今後CMSおよびNMOの補助的診断ツールとするには抗体価の定量的な比較によるcut off値の設定が必要と考えられた。
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