研究概要 |
昨年度、二次元免疫ブロットと質量分析の手法を用いて、多発性硬化症(MS)患者の血清中に存在する自己抗体の認識抗原蛋白として、Phosphoglycerate mutase 1 (PGAM1)とStress-70 protein (GRP75)を同定した。本年度、抗PGAM1抗体と抗GRP75抗体の特異性の検討を目的として、ヒトリコンビナント蛋白を用いた一次元免疫ブロットによりMSならびにその他神経疾患患者と健常者の血清を用いてこれら自己抗体の検出を試みた。結果、抗PGAM1抗体の陽性率は、MS81%(n=21),視神経脊髄炎(NMO)77%(n=13),パーキンソン病24%(n=21),多発性脳梗塞30%(n=20),感染性髄膜脳炎32%(n=19),健常者24%(n=17)であった。MSおよびNMOにおける抗PGAM1抗体の陽性率はその他神経疾患ならびに健常者と比較し有意に高値であった。一方、抗GRP75抗体の陽性率は、MS70%(n=23),感染性髄膜脳炎20%(n=20),健常者35%(n=26)であった。MSにおける抗GRP75抗体の陽性率は、その他神経疾患ならびに健常者と比較し有意に高値であった。次に、MS患者内における抗PGAM1抗体ならびに抗GRP75抗体の陽性・陰性者間で臨床・検査所見(病型,EDSS,再発回数,罹病期間,オリゴクローナルバンドの有無)、画像所見(大脳病変の個数、大脳萎縮・視神経・脳幹・小脳・脊髄病変の有無)に違いがあるか検討した。結果、抗PGAM1抗体陽性例では画像所見上、脳幹(p<0.04)・小脳(p<0.03)病変を合併する症例が多く、抗GRP75抗体に関しては寛解期の方が抗体陽性になり易く(p<0.03)、抗体陽性例はオリゴクローナルバンド陽性の症例が多い(P<0.04)という特徴を有していた。最近、MS患者の髄液中に存在する抗Heat shock protein 70 (HSP70)抗体価が疾患活動性と相関するといった報告がある(Chiba S et al, 2006)。しかし、今回の我々の血清を用いた検討では抗GRP75抗体は寛解期の方が陽性になり易く、EDSSなどの臨床症状に関しても相関は認めなかった。一方、今回の研究において抗PGAM1抗体および抗GRP75抗体はMS患者の血清中においてともに高率に存在することが確認されたことから、診断マーカーとしての価値の確立のために今後さらに多数例での検討が必要と考えられた。
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