ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)や牛の海綿状脳症(BSE)は、致死性の中枢神経系の疾患であり、現在、効果的な治療薬・治療法は無い。本研究は、この疾患を克服するため感染に必須な因子を精製・同定し、プリオン病原体の感染メカニズムを解明する事で治療薬の開発、治療法の確立に寄与する事を目的とする。 本研究では感染因子の同定を行うためにより単一な培養細胞系を用いた。しかし、プリオン研究で常用されるマウス神経細胞は、通常牛血清を補栄養素として使用するため牛由来の成分が多量に存在し、特定分子を同定する上で大きな障害となっていた。そこで我々は本件度、牛血清を使用しない非血清培養条件下で細胞の維持を検討した。数種類の培養条件を比較した結果、マウス神経細胞において非血清条件下で異常型PrPの蓄積維持を確認した。 プリオン病の病原体は異常型PrPを含む構造物で複合体を形成していると考えられている。本年度は、プリオン感染マウス神経細胞の上清・細胞抽出液から、分子密度の違いにより分画(密度勾配遠心法)し、病原体を精製した。その結果、培養細胞系では、今までに報告の無い非常に軽い分画に異常型PrPが精製された。さらに、感染価は、異常型PrPと同様の分画に検出された。本年度における研究は、予定通り進行し、来年度以降の研究成果によって、プリオン病原体ならびに特異的因子の同定につながると期待できる。
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