O-linked-_-N-acetylglucosamine(O-GlcNAc)はリン酸化同様、動的に蛋白を修飾し、その機能を調節する。当該年度は、O-GlcNAc修飾蛋白の骨格筋における正常分布と神経筋疾患におけるその変化を検討した。診断目的で得られた40症例の生検筋の連続切片を作成し、O-GlcNAcに対する抗体を用いて免疫組織化学法にて評価した。正常対照筋線維ではO-GlcNAc修飾蛋白は細胞膜と核に認められた。O-GlcNAcは筋ジストロフィー・筋炎・横紋筋融解症における再生筋、筋炎における萎縮筋の一部、封入体筋炎・縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(DMRV)の空胞を持つ筋線維において細胞質にび漫性に染色された。神経原性筋萎縮のtarget formationはO-GlcNAc陽性であった。封入体筋炎とDMRVでは、空胞壁に強い線状のO-GlcNAc陽性反応がみられ、蛍光染色においてこのO-GlcNAcと核膜蛋白emerinとの重なりを確認した。以上、人の骨格筋組織において、O-GlcNAc修飾蛋白は、主に細胞膜と核に存在していることを初めて示した。O-GlcNAc修飾蛋白の本態は、現在までの生化学的研究によれば、細胞膜ではインスリン受容体のような細胞内シグナル伝達のカスケードの開始に関わる蛋白、核では核内転写因子や核孔蛋白である可能性がある。様々な筋疾患の再生筋線維や萎縮筋線維、封入体筋炎とDMRVでは空胞を持つ筋線維の細胞質、target formationが抗O-GlcNAc抗体で陽性であった。これらの筋線維の細胞質では同時に検討したHSP70の反応性も亢進していた。HSP70はそれ自身O-GlcNAc修飾を受ける蛋白で、ストレス下でO-GlcNAcのレクチンとして働く蛋白である。筋線維に対するストレスがO-GlcNAc修飾を誘導している可能性がある。封入体筋炎とDMRVの縁どり空胞には核の崩壊産物が認められることより、空胞は核の変性産物であると推定されている。核膜マーカーのemerinと重なってみえたO-GlcNAc修飾蛋白については核膜蛋白由来と推定される。今後神経筋疾患におけるO-GlcNAc修飾蛋白を解析・同定することにより、疾患筋の変性過程におけるストレス反応や、封入体筋炎とDMRVの核変性機序についての新しい知見が得られるものと考える。
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