研究概要 |
骨格筋特異的なTGF-βファミリー分子であるmyostatinは骨格筋萎縮因子であり、筋ジストロフィーの病態を促進する。myostatinの細胞膜serine/threoneキナーゼ受容体であるTGF-βタイプI受容体を標的とする低分子阻害剤(以下TβRIi)によって、筋ジストロフィーの分子標的治療法を開発することを目的として研究を行った。まず3種類のTβRIi (SB, LY, Ki)を準備して、それぞれの各種TGF-βファミリーシグナル(TGF-β1, myostatin, GDF11, activin)活性阻害効果についてHEK293-(CAGA)12-ルシフェレースレポーター遺伝子転写活性系を用いてin vitroで検討を行った。その結果、3種類のTβRIiのうちKi化合物が最も効果的(IC50:5μM)かつ選択的にmyostatin活性を阻害することが明らかとなった。次いでこのKiを野性型マウスに粉餌に混ぜて投与し、その血清を採取し上記のアッセイ系に添加しmyostatin活性の阻害効果についてex vivoでも検討した。Ki化合物0.08%粉餌混入によってmyostatin活性が80%阻害されることが示された。更にこの0.08%Ki化合物混入粉餌を、我々が独自に開発したカベオリン-3欠損常染色体優性肢帯型筋ジストロフィー1Cモデルマウスに4週齢から14週齢まで12週間投与した。経時的解析ではKi化合物投与群は非投与群と比較して6週齢から体重と握力の有意な上昇を認めた。16週齢マウスの骨格筋解析では筋量及び単一筋線維断面積は投与群が非投与群と比較して統計学的有意に増大していた。また骨格筋のmyostatin活性(Smad-2リン酸化、p21遺伝子発現)はKi投与群では有意に抑制されていた。以上の検討からTβRIi経口投与は、myostatin阻害作用によって筋ジストロフィーモデルマウスの骨格筋病変を改善することが明らかとなり、筋ジストロフィーに対する低分子医薬分子標的治療法となり得ると結論された。
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