mRNA監視機構であるnonsense-mediated mRNA decay (NMD)は、遺伝子配列途中にストップコドンが生じた変異mRNAを排除する生体機構である。セレノシステイン(Sec)はストップコドンと同じUGAでコードされるため、セレン欠乏下ではSecを含むセレノ蛋白質mRNAに対しNMDが作動すると考えられる。NMDを標的とした分子薬理学的治療法を開発するために、マウス筋芽細胞株におけるNMD抑制系を開発するとともに、生体レドックス系の主要なセレノ酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼ1(GPx1)やチオレドキシンリダクターゼ1(TR1)のセレン欠乏下での動態にNMDが及ぼす影響について検討した。NMDの活性化には、RNA helicaseであるUpf1の連続的なリン酸化、脱リン酸化が重要である。Upf1の生理的キナーゼであるSMG-1とUpf1の脱リン酸化に関与するSMG-7を標的にsiRNAを作成し、マウス培養細胞に導入、各蛋白質のノックダウン及びNMD活性の抑制を確認した。セレンはメチル水銀に親和性が高く、メチル水銀曝露下では活性型セレンは減少する。事実、メチル水銀曝露下でGPx1 mRNAは低下し、sodium seleniteの添加で回復した。このGPx1 mRNA低下は、NMD抑制細胞ではnon-silencing siRNA導入のコントロール細胞に比し回復したことから、メチル水銀によるセレン欠乏下でのGPx1 mRNAの発現低下はNMDの作動によるものであることが明らかになった。細胞内セレン欠乏下ではselenocystein tRNA^<(Ser)Sec>が機能せず、UGAはストップコドンとして認知され、そのmRNAはNMDにより分解されると考えられる。一方、TR1 mRNAはSecをコードするUGAがNMDの無効な最終exonに存在するため、その発現は増加すると考えられた。
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