mRNA監視機構とされるnonsense-mediated mRNA decay(NMD)は、遺伝子のリーデイングフレーム途中にストップコドンPTCが生じた変異mRNAを排除する生体機構である。NMDがその病態に負に作用することが明らかになったPTCを有するUllrich病患者繊維芽細胞をモデル細胞として、NMD抑制が細胞生理機能に及ぼす影響について細胞種差に関する検討を行った。Ullrich病繊維芽細胞で喪失していたcollagen VIα2 mRNA及びcollagen VI蛋白質を部分的に回復させることが明らかになったNMD構成分子であるUpf1、SMG-1、SMG-8、SMG-6、SMG-7、MAGOH、BtZの各因子のノックダウンで、腫瘍細胞と非腫瘍細胞ではNMD抑制による生体応答に大きな差があること、さらにNMD構成分子間にも細胞機能に及ぼす影響に差があることが明らかになった。即ち、腫瘍細胞であるHeLa細胞ではUpfl、SMG-1、SMG-7、MAGOH、BtZのノックダウンで細胞増殖が著明に抑制されたが、SMG-8のノックダウンでは全く抑制されず、SMG-6のノックダウンでマイルドな抑制であった。一方、Ullrich病患者繊維芽細胞の増殖は、SMG-8のノックダウンではHeLa細胞と同様に全く抑制されず、その他の因子のノックダウンでは抑制は認められるもののマイルドな抑制にとどまった。細胞周期に対する影響は、HeLa細胞、Ullrich病患者繊維芽細胞とも認められなかった。これまでの検討結果から、ノックダウンによる細胞生理機能への影響が少なくかつ治療効果の高いNMD構成因子としてSMG-8が有用と考えられた。そこで、長期的なNMD抑制が細胞生理機能に及ぼす影響についてさらに検討するために、ヒト筋芽細胞株を用いてSMG-1 SMG-8を標的としたsiRNA安定発現細胞株を作成した。
|