研究概要 |
本年度では、電気磁気生理学的手法を用いて,指あるいは手首に刺激を与えて誘発される脳の磁界変化を計測し,非侵襲的にヒト一次感覚皮質における体再現地図の特徴を追跡した。皮質脳磁界反応はおよそ100Hzと600Hzの2種類の周波数帯に分類されること、また後者の高周波信号はヒトの視床からが伝播して皮質付近に到達する時間帯(早期成分)と皮質反応出現後の時間帯(後期成分)の二つに分かれることが判明した。また多くの症例における誘発脳磁界や誘発脳波、動物実験で見られる後期高周波信号の薬物投与による変化など、多岐にわたる文献的な考察の結果、後期高周波信号は、一次感覚皮質における情報処理の初期段階を反映することから種々の神経疾患に臨床応用できると考えられた。これらの知見はClinical Neurophysiology誌に総説として発表予定である。 また、経皮的末梢神経電気刺激の前後で、刺激部位の指と刺激しない、隣接した指の伸展運動に伴う脳磁界を計測し比較検討した結果、運動関連脳磁界の運動野成分は刺激指では減少したものの、隣接した指では変化なかった。しかし、感覚野成分はいずれの指でも減少したことから、経皮的末梢神経電気刺激の効果は、感覚皮質では刺激指の体再現部位を凌駕して一次的に影響すること、運動皮質では刺激指の体再現部位に影響が限局することがわかった。H22年度には研究テーマは、稀少刺激に対する体性感覚ミスマッチ反応や聴覚皮質の高次脳機能へと拡大した。複合音において基本周波数だけが欠落したいわゆるmissing fundamentalのピッチ知覚に関与する聴覚誘発脳磁界を計測して、missing fundamentalの場合、基本周波数のある音刺激よりも物理的には刺激強度は小さいにも関わらず、奇異的に聴覚誘発脳磁界は大きいこと、またその聴覚野活動が遷延するという新知見を見いだした。
|