研究概要 |
課題1:高血圧による末梢神経障害について:SHRおよび対照群としてWKYラットを用いた。SHR群の血圧は対照群に比し有意に高い。神経伝導速度は生後6か月ではMNCV、SNCVともにSHR群が有意な遅延を示した。病理学的には生後6か月で軸策委縮像を呈した。有髄神経線維の密度については有意差はなく、神経線維の脱落は見られない。これらの結果は高血圧例での末梢神経障害を示唆し、高血圧患者では潜在性神経障害を認める可能性がある。高血圧は末梢神経障害発症のリスクファクターである。 課題2:STZ-糖尿病神経の神経内鞘マクロファージ活性化と虚血に対する形態学的脆弱性について:STZ-糖尿病8週間後の坐骨・脛骨神経では神経内鞘Iba-1陽性マクロファージ数が有意に増加し、形態学的に紡錘形であるが、一部は膨張化を示しBrdU陽性のマクロファージが含まれた。90分間虚血・再潅流6時間後から、糖尿病神経でマクロファージ数がさらに有意な増加を示し、さらに膨張化を著明に認めた。 糖尿病性神経では神経内鞘マクロファージの増殖が見られ、虚血・再潅流後の炎症反応の増強を認めた。 課題3:末梢神経虚血・再灌流傷害に対するHGF遺伝子治療について:Wistar系雄ラット(n=76)右後肢に、虚血(4時間)・再潅流を惹起した。虚血直後に100μgのhuman HGF遺伝子を組み込んだHVJ-リポソームベクターを前脛骨筋内に経皮的に注射して逆行性に神経内へ導入した。導入は1週毎に繰り返して合計3回行った。治療の評価は感覚閾値の定量評価、電気生理学的検査、神経線維別知覚閾値検査、後肢の血流量及び皮膚温を測定した。さらに疼痛マーカーであるATP受容体(P2X,P2Y)mRNAの発現量をRT-PCRで評価し、後根神経節(L4-6)、坐骨・脛骨神経の病理学的検討を加えた。HGF群では、感覚障害はHGF導入後2週目より有意(p<0.01)に改善した。また、導入1週間後から足底の血流量及び皮膚温は有意(p<0.05)に増加し、電気生理学的検査は3週目から有意(p<0.05)に改善した。HGF群ではP2Y1、P2x3のmRNA、および神経線維別知覚閾値検査でも導入後1週で有意(p<0.05)に改善した。病理学的にはHGF群で再生線維がより著明に認めた。HGF遺伝子の逆行性神経内導入により感覚障害の改善が認められた。ATPとの相関した回復を示したことより、本法は虚血再灌流障害に対する有効な治療法となりうると考えられた。
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