ヒト膵導管細胞から膵β細胞(インスリン分泌細胞)を分化誘導し、得られたβ細胞を患者に移植する、という糖尿病を「治す」治療法の開発を目指している。 この全体構想の中で平成20~21年度は、1)米国からよりよい状態のヒト膵導管細胞を入手する方法、2)入手した細胞の増殖・分化誘導方法、について検討した(ヒト膵導管細胞、臨床膵島移植の際にヒト膵臓から膵島(移植に使用される)が単離された残りの分画(通常廃棄される)から得られる)。 今年度は1)2)について得られたデータを解析し、保存された試料(RNAなど)を用いて、追加実験を行った。 1)については、輸送時間、輸送中温度、容器、組織量、保存温度の改良により、日本での入手時の細胞のバイアビリティーは改善し、その後の増殖・分化誘導の実験に使用することはできるようになったが、高いバイアビリティーを持つ細胞の方が増殖しやすく、分化が誘導される度合いが強い傾向があった。これは、組織に含まれるβ細胞に分化しうる細胞のバイアピリティーが高い方が増殖・分化しやいということを示唆しており、入手前の輸送方法については今後もできる限り改善していく必要があると考えられた。 2)については、インクレチンの一種であるGLP-1の投与によりインスリンmRNA量が増加し、分化誘導が促進されていることが確認された。また、分化の経過中にngn-3mRNAの発現も増加していた。ngn-3は前駆細胞からβ細胞への分化の過程で一過性に発現し、成熟したβ細胞では発現が認められないとされる転写因子である。ngn-3が増加していることは、我々の見ている分化が生体内で起きている生理的な分化過程と類似したものであるのではないかと考えられた。
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