最近の研究で、様々な生活習慣病の背景には慢性炎症による異常な細胞間作用が生体内で生じていることが明らかにされている。生体内組織では複数の細胞種、特に実質と間質の細胞が常に相互作用しており、その破綻により各種疾患が発症すると考えられる。したがって、従来の単一細胞種から成る培養細胞を用いた検討や組織固定標本の形態学的検討では、疾患の本質である、生体内における詳細な多細胞連関のメカニズムや背景にある分子機構を検討することができなかった。 私たちは、二光子レーザー顕微鏡を用いて生体内の細胞を生きたまま観察して、その機能を解析できる「生体分子イメージング手法」を開発した。メタボリックシンドロームの病態解明を目指して、肥満脂肪組織のリモデリング過程を観察したところ、肥満脂肪組織では脂肪細胞分化、血管新生、マクロファージの集積が空間的に共存して生じて組織の再構築が起きていることが明らかになった。また、肥満脂肪組織内の微小血管には、炎症性細胞が活性化し、脂肪組織での炎症を増幅していると考えられた。さらに、我々は、脂肪組織の間質には多くのリンパ球が存在し、肥満脂肪組織においてCD8陽性T細胞が浸潤し、炎症性マクロファージの浸潤を引き起こし、脂肪組織の炎症を増幅し、最終的に糖尿病病態を悪化させていることを示した。現在、CD8陽性T細胞の活性化メカニズムについて詳細な解析を進めている。その過程で、我々はオートタキシンという脂質生合成酵素が脂肪組織の肥大と炎症に関わる事を明らかにした。さらに、他の免疫細胞の脂肪組織炎症への関与も明らかにしつつあり、肥満脂肪組織がいかに機能異常をおこすか、局所免疫との関係とともに研究を進めている。
|