Wnt signal系は、動物の発生過程をはじめとして、多彩で重要な役割を演じ、かつ、TCFL2遺伝子は糖尿病の原因遺伝子の1つとして注目されている。そこで、膵発生と糖尿病発症におけるTCF7L2遺伝子の機能を明らかにするため、PDX-1 promoterを用いて、膵特異的にTCF7L2遺伝子の上流に位置する[○!R]-catenin欠損したマウスを作製した。このマウスは、約10ヶ月までの観察では、外見上、野生型と見分けがつかず、成長も正常であった。また、随時に測定した血糖値も正常であり、10ヶ月齢マウスに糖負荷試験を行ったが、異常はみられなかった。さらに、膵の形態を免疫染色にて観察したが、野生型と差はみられなかった。これらは全くの予想外な結果であった。これらの結果は、この遺伝子の欠損マウスが胎生致死である可能性を示している可能性がある。そこで次年度は、遺伝子欠損マウスを胎生期に検討する。 また、新たなtransgenic mouseを2種作製した。1つは、恒常的活性化型[○!R]-cateninを発現するマウスである。もう1つは、TCF7L2遺伝子のdominant negative型を過剰発現させるマウスである。現在、恒常的活性化型[○!R]-cateninを発現するマウスは順調に繁殖できているが、TCF7L2遺伝子のdominant negative型を過剰発現させるマウスは継代が出来ず、人工授精を試みている。 これらマウスをPDX-1 promoterやinsulin promoterによりCre recombinaseが産生されるマウスと掛け合わせることにより、膵特異的、あるいは[○!R]細胞特異的に恒常的活性化型[○!R]-cateninやdominant negative型TCF7L2遺伝子産物を発現させることができ、Wntシグナル系の膵発生、糖尿病発症における役割を明らかにできると考えている。
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