CLIP170をノックダウンした脂肪細胞や、同蛋白質の微小管結合ドメインを欠失した変異体を過剰に発現した脂肪細胞を用いて、インスリン依存性糖輸送を検討した。その結果、糖輸送が60%程度まで減弱することを確認した。一方、CLIP170の変異体を発現した細胞では、糖輸送担体GLUT4は、細胞膜までトランスロケーションできず、GLUT4を含む小胞輸送の障害の結果、インスリン依存性糖輸送が抑制されていると考えられた。この結果は、GLUT4を含む小胞が微小管先端を通過することを示している。 さらに、脂肪細胞に発現している蛋白質の網羅的検討から、CLIP170結合蛋白質(p190)を同定した。両蛋白質問の結合を競争阻害する目的で、CLIP170との結合領域にTAT蛋白トランスダクションシグナルを融合した人工蛋白質を合成・精製し、脂肪細胞へ添加した。この合成蛋白質が細胞内に移行することは蛍光顕微鏡で確認した。この細胞を用いて、再度インスリン依存性糖輸送を測定した。その結果、糖輸送は10〜20%抑制された。しかし、その抑制の程度は軽微であり、p190の他にCLIP170と協調して働く、重要な分子の存在が考えられた。 H20年度の結果から、微小管先端蛋白にも小胞輸送を調節する機能が存在することが判明した。微小管先端に特異的に存在する蛋白質の存在は、過去10年注目されていたが、小胞輸送との関連は不明であった。しかるに今回の観察結果は、糖尿病に限らず、生物学全般においても重要な発見であると考える。
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