脂肪細胞に発現するCLIP170蛋白質は、微小管の先端に位置し微小管先端と細胞膜間の相互作用に重要な役割が想定される。本年度、CLIP170を過剰に発現した細胞、ノックダウンした細胞、さらには微小管結合ドメインを欠落させた変異体を発現する培養脂肪細胞を用い、インスリン依存性糖輸送担体の細胞内局在の変化と糖輸送に及ぼす影響を検討した。その結果、CLIP170蛋白質が存在しないか、微小管に結合出来ない状態で正規の局在から外れた場所に存在すると、糖輸送担体が細胞膜まで移動出来ないこと、さらにインスリン依存性糖輸送が減弱することを確認した。次に、その作用機序を明らかにするため、CLIP170蛋白質に結合可能な蛋白質の網羅的解析を行った。特にインスリンによりその結合が強化・減弱する分子の同定を行った。アクリルアミドゲルで展開できる10~300kDaの蛋白質をスクリーニングしたが、同定出来たのは1分子のみであった。この分子は、微小管の伸展に重要な役割が想定される蛋白質である。現在この分子がどのようにして微小管先端と細胞膜を連結するのか、糖輸送担体の細胞内移動への影響について、その詳細なメカニズムを検討中である。 以前より、糖輸送蛋白質の細胞内移動にはアクチン繊維が重要であり、微小管の役割については曖昧であった。今回の結果は、細胞内小胞輸送における微小管の役割を確認することが出来ただけでなく、微小管と細胞膜の結合メカニズムの解明に向けて重要な知見が得られたと考える。現在までに、微小管と細胞膜を連結する分子が幾つか報告されているが、インスリンの作用はこれら分子との会合とは関係なく、新規メカニズムによるものと考えられる。
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