申請者らは糖尿病血管合併症発症機序として「高グルコースによるミトコンドリア由来活性酸素過剰産生」の意義を提唱している。本年度はこの仮説をさらに発展させたものとして、主に以下の1~5の実験を行った。 1.培養血管内皮細胞において、低酸素濃度環境下では、3時間および24時間の25mMグルコース培養で5.5mMグルコース培養に比し、HIF-1αの発現量が増加することを確認した。 2.通常酸素濃度環境下に比し、低酸素濃度環境下においては5.5mMグルコースおよび25mMグルコースのいずれににおいても細胞内低酸素状態およびミトコンドリア由来活性酸素産生が増強することを確認した。 3.低酸素濃度および通常酸素濃度環境下において、5.5mMグルコース培養に比し、25mMグルコース培養において、細胞内低酸素状態およびミトコンドリア由来活性酸素産生のさらなる増強が確認された。 4.コントロールマウスではSTZ腹腔内投与による糖尿病導入により、腎糸球体でミトコンドリア由来活性酸素産生増加、低酸素領域増加、HIF-1α発現増加が認められた。 5.ミトコンドリア由来活性酸素の特異的除去酵素であるMnSODを内皮細胞特異的に発現させたトランスジェニックマウス(eMnSOD-Tgマウス)では、糖尿病導入による腎糸球体でミトコンドリア由来活性酸素産生増加、低酸素領域増加、HIF-1α発現増加が抑制された。 これらの結果より、高血糖によるmtROS増加を介して組織内低酸素状態が誘導され、このことが糖尿病合併症発症に関与している可能性が示された。
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