近年私たちは酵母ツーハイブリッド法を用いて核内受容体PPARγに結合する新規蛋白PDIP1を単離し、培養細胞においてPDIP1がPPARγを初めとする核内受容体の転写活性型共役因子として機能することを報告した。更にPDIP1の生体内機能を同定する目的で、PDIP1ノックアウト(KO)マウスの樹立に成功した。標準餌飼育下でPDIP1KOマウスの体重は、野生型マウスと有意差を認めなかったが、野生型に比較して約50%程度の低トリグリセリド(TG)血症を呈することを見いだした。本年度は、PDIP1KOマウスにおける脂質代謝異常の分子病態について、高脂肪食(HFD)負荷を行い解析した。PDIP1KOマウスは生後13週からHFD誘導性肥満抵抗性を呈し、内臓・皮下脂肪重量が野生型に比べて有意に減少していた。またKOマウスはHFD誘導性脂肪肝抵抗性を示し、肝臓における中性脂肪合成に関与する遺伝子群の発現低下ならびに脂肪酸β酸化に寄与する遺伝子群の発現増強を認めた。更に肝臓における脂質代謝のマスター制御因子であるAMP-activated protein kinaseのリン酸化ならびにPPARγ coactivator-1α発現が有意に亢進していた。インスリンおよびブドウ糖負荷試験において、KOマウスは有意に良好なインスリン感受性と耐糖能を示し、HFD負荷KOマウスより調整した初代培養肝細胞においで、インスリン刺激によるAktリン酸化が明らかに亢進していた。Indirect calorimeteryにて測定した酸素消費量は、KOマウスにおいて野生型マウスに比し有意に多かった。以上の成績より、PDIP1KOマウスはHFD誘導性肥満抵抗性を示し、その原因として肝臓における脂肪酸酸化の亢進と中性脂肪合成の低下が関与し、その結果肝臓におけるインスリン感受性亢進が惹起されているものと考えられた。
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