研究概要 |
近年我々は酵母two-hybrid法により、PGC-1と同様に核内受容体PPARγのDNA結合領域からヒンジ領域の一部に結合する蛋白として、機能未知のPDIP1(PPARγ DBD-interacting protein1)を単離した。PDIP1は、ATPase domain、RNase B domainおよびhelicase motifを有する巨大な分子で、培養細胞ではPPAR familyの転写活性増強作用を示した(Endocrinology,2006)。更に我々は、生体内におけるPDIP1機能を解析する目的で、PDIP1ノックアウト(KO)マウスを世界に先駆けて樹立した。各ゲノタイプは正常に出生し、KOマウスは明らかな解剖学的異常を認めず、標準餌下で摂食量や体重増加も野生型マウス(WT)と同様であった。しかし興味あることに、KOマウスでは空腹時血清中性脂肪(TG)の有意な低下を認めたため、KOマウスに高脂肪食(HFD)負荷を行い、脂質代謝異常の病態解析を進めた。KOマウスはWTに比べて、明らかに肥満抵抗性ならびに脂肪肝抵抗性を呈し、良好な耐糖能を示した。HFD下でもKOマウスは、有意な低TG血症を呈し、白色脂肪重量と大型白色脂肪細胞数の減少を認めた。HFD下において、WT肝臓PDIP1 mRNA発現は増加し、KOマウス肝臓では、TG合成系酵素群の発現低下に加えて、脂肪酸酸化に関与する遺伝子群発現の増加を認め、AMP-activated protein kinase活性化と脂肪酸酸化亢進を認めた。一方、KOマウスの褐色脂肪組織における適応熱産生に関与する遺伝子発現、および骨格筋におけるAMPK活性化はWTと差を認めなかった。以上の成績より、PDIP1はHFD摂取による肥満増悪性転写共役因子として機能し、メタボリック症候群の新たな治療標的になる可能性がある。
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